Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

心の動きを大事にした普遍的な作品を制作していきたい…『雲旅』下本地崇監督に聞く!

2022年9月23日

女子プロボクサーの葉月さなさんを追ったドキュメンタリー『雲旅』が9月23日(金)より関西の劇場でも公開。今回、下本地崇監督にインタビューを行った。

 

映画『雲旅』は、女子プロボクサーの葉月さなさんを追ったドキュメンタリー。女子プロボクサーの葉月さなさんこと脇山さなえさんは1984年、福岡で生まれ、6歳で親に捨てられて以降、弟と共に児童養護施設で育った。そして17歳で長男を出産し、弟の死がきっかけとなり30歳でボクシングの道に進んだ。仕事と練習、試合を繰り返す日々のなかで、忘れていたいことや忘れられないこと、その答えを探し続ける葉月さな。本格的な運動経験もなかったにもかかわらずボクシングの世界に飛び込み、過酷なリングに立ち続け、ボクシングを心の杖にして歩み続ける彼女の姿を記録した。

 

前作『6600ボルト』では還暦になる山部善次郎さんを撮った下本地監督は、次回作を考えていく中で「戦う女性を撮ってみよう」と検討。「主婦や学生やOLも戦っている」と踏まえ、今回は「分かりやすく、ボクサーでいこう」決定。早速、ボクサーを探していく中で、監督が活動拠点の福岡で、若くて強い女子ボクサーが沢山いた中で、葉月さなさんを発見。30歳でプロデビュー、というかなり遅咲きタイプだったが「人生で様々な経験をした後のデビューだろう。人生の深みがあるんじゃないか。何かを持っているんじゃないか」と勘が働いた。監督自身からアプローチし、初めて会って話していく中で「普遍的なことを描いていきたい」と伝え、応じて頂くことに。前作で山部善次郎さんを丸裸にした作品を本人承諾の上で仕上げたことを伝えると、葉月さんは、いくつかのプライベートは不可としながらも、過去にTV取材を受けていたこともあり「僕なりの距離のとり方を以て接していき、次第に本音も出てきた」と察した。メディア向けのキャラクターを作っていたようだが「気がついた時には素の姿が出ていたようだ」と安堵。ご家族から拒否されることも無く「息子さんの多感な反抗期もあったが変化していった」と感じている。

 

撮影における苦労は特になく順調に進められたが、意外にも「スポーツはドタキャンやスケジュールが決まらないことがあるんだな。プロアマ関係なく外国での試合が急に決まって急にキャンセルになることもある」と業界特有の慣習には驚かされた。最初に「ずっと並走して一緒に旅をして目的地に向かう、ようなものだ」と伝えており「目的地になかなか辿り着かなくとも焦る必要はないし、さなさんらしくいてください」と気遣いを大事にしている。また「良いところを見つけて着地点を見つけるので、プロセスを撮るので、気にしないで自分らしくいてください」と依頼し、当初は「日本チャンピオン或いは大きな試合を着地点にしよう」と模索。だが、撮影していく中で「弟の最後の場所を着地点にしよう」と発案。だが「今は向かえる勇気がない」と云われ「気持ちが出来上がったら伝えてくれ」とお願いした。最終的に、さなさんが「弟の最後の場所に行こう」と気持ちが動いてくれた瞬間に「この3,4年間が繋がった」と達成感が得られている。

 

2017年にクランクインした本作。2018年に監督の親友が自死したことがあり、半年間程度は頭の中をよぎっていたこともあり「偶にしか合わない友達でこんな状況に陥った。さなさんの弟さんも自死だと伺っていたが、家族であるので、想像を絶することだ」と実感。そこで、当時書いた詞が「雲旅」である。2018年に詞ができ、2019年にはシンガーでもある監督がLIVEで歌っていた。逆説的な経緯だが「今作では、歌に向かって着地させよう。タイトルには重層的に意味を込めており、本作自体が心の旅であり、諸行無常を言い換えた表現でもある」と説く。また、撮影途中からは「弟の最後の場所に向かって一緒に旅をするプロセスを一発撮りしよう」と意気込み、その中での4年間の試合を収めている。インタビューは「なるべく本人が自問自答していく姿に観る人を惹き込んでいく。プロセスを見せたい」と考え、試合結果にはふれていない。勝ち負けは大事であるが「スポーツの記録映画ではない。心の動きを大事にしている」と述べ、普遍的な作品に仕上げている。

 

完成した作品を、葉月さんは地元の劇場で観て頂いた。鑑賞直後に「本当にありがとうございました」と電話があり、喜んでもらっている。群像劇としても捉えられる作品であり「お客さんは入口によって出口が違う。様々な入り込み方があるので様々な感想を頂いている」と好反応に受けとめていた。なお、現在の下本地監督はコロナ禍をテーマにドキュメンタリーを制作しており「表現者として、この時期に僕達は何をしていたのか、を映画にしたい。配信にも取り組んでいた。罹患し救急車で運ばれたこともある。映画にしたくなる程に様々な出来事があった」と打ち明け「コロナ禍で僕達がどのようにして生き抜いてきたか」と証を残そうとしている。

 

映画『雲旅』は、9月23日(金)より京都・出町柳の出町座、9月24日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts