どこにも属せない人たちは、よそ者…『よそ者の会』西崎羽美監督に聞く!

大学構内の“よそ者”たちの不穏な集いを描く青春群像劇『よそ者の会』が6月24日(火)に大阪・梅田のテアトル梅田でも公開される。今回、西崎羽美監督にインタビューを行った。
映画『よそ者の会』は、どこにいてもよそ者だと感じる者たちがひとつの場所に集まり、それぞれの秘密が交錯する様を描いたドラマ。インディーズ映画の登竜門として知られる第18回田辺・弁慶映画祭でキネマイスター賞を受賞した。大学の清掃員として働く鈴木槙生は、物静かな生活を送りながら、ひそかに爆弾づくりに没頭していた。そんなある日、大学の構内で「よそ者の会・会員募集」と書かれたポスターを目にする。入会の条件は「よそ者」であることだという。興味を抱いた槙生は、会合に参加するが、そこには日々の鬱憤や殺伐とした感情について語り合う学生たちの姿があった。その集まりを主催する女子学生の坂田絹子も、一見するとただの学生だが、意外な秘密を抱えていた。主演は『ボクらのホームパーティー』の川野邉修一さん。監督は映画美学校や日本大学大学院芸術学研究科で映画を学ぶ西崎羽美さんが務めた。
西崎さんが大学4年生の夏休みを迎えた頃、大学院入試のために本作の制作をすることに。同時に、大学の卒業を控えるタイミングの中で、学生生活を振り返り「大学での思い出が全然ないな」と気づく。コロナ禍により、1・2年生の時はオンライン授業ばかりで、校舎に対する愛着もなく「せっかくなら、大学という場所を映画の中に収めよう」と決めた。そこで、自身が意図して伝えたことではない捉え方をされる経験が多かったことから、関心があった”コミュニケーションの齟齬”を映像化できないか、と熟考していく。なお、大学2年生の頃から映画美学校に通っており「大学に通うよりも、映画美学校に通う方が楽しかった。結果的に、大学の中で自分の居場所がなくなったな」と実感していたことも大きい。
脚本を執筆していく中では、爆弾の取り扱いがポイントになっており「爆弾を爆発させるか、させないか…そもそも、爆弾というモチーフと、”よそ者”である彼がメンバーとどのようにリンクしていくか。心の流れと爆弾の行方がしっかりと相乗効果を生み出すか」と悩む共に「爆弾を見せられた時、人はどのような反応をするのか。今作で登場する人は皆協力するけれども、果たして本心ではどうなのか。リアリティとフィクションの境目をどのように表現すればいいか」とじっくりと考えた。”よそ者の会”のメンバーについては「どのようなキャラクターがいるのか。様々な人と話し合いながら、人物像を決めるまでが大変でした。大学という場所に対して、皆がどういう思想を持っているのか。意思を明確にするのも大変でした」と明かす。そこで「大学にどういう人がいたら、おもしろいんだろう?」と検討していく中で「”大学”という場所だけで考えてみると、単なる大学生の会合になるんじゃないか。大学生だけの会をおもしろくすることができるか」と不安に。だが「アンバランスな会になるかもしれないけれど、雰囲気や属性がそれぞれ違うバックグラウンドを持った人が集まる会合にしよう」と構想し、1人だけ年上の男性を主人公に決めた。なお、10代後半や20代前半の学生が作る映画として、自身と同年代のキャラクターが主役である傾向が大きく、当時20歳だった西崎さんは反骨精神が芽生え「自分とはかけ離れた人。30代の男性を主人公に据えることによって、こういう人たちも撮れるんだぞ」と強気に。とはいえ、リアリティを求めていくと、自身では想像できない部分もあったため、様々な人に話を伺ったという。「距離感があるからこそ考えやすく、それらを投影しやすかった」と思い返す。なお、キーアイテムとなる爆弾について、当初は全く考えておらず。「”よそ者の会”にまつわる起承転結がある物語ならば、キーパーソンか起点となるようなものがもう1つ出てきたらいいよね」というアドバイスを映画美学校の先生から頂き、大好きな『太陽を盗んだ男』について卒業論文を書いていたこともあり「爆弾を使って、脚本をもう一度書いてみよう」と一念発起。実際に書いてみると「これは結構いい組み合わせなのかもしれない」と気づかされた。その後、作品の終わらせ方が全く分からず悩んだが「あれ?なんか違う!?といった違和感が出てきたらいいな」と考え、ユニークな終わらせ方を選んでいる。
キャスティングにあたり、主役の川野邉修一さんと坂本彩音さんは、映画美学校に通っていた頃にアクターズコースに在籍していた方であり「2人とは学内で面識があり、私が課題で作った映画を”おもしろい”と直接言ってくれたことがあった」と明かし、印象深かった。本作を撮るにあたり、まず、アクターズコースに出身の方々のプロフィールを見ながら「”よそ者の会”にいそうな顔の人がいいなぁ。この2人の顔はバランスも良いな」と気づき、オファーしている。スタッフは、映画美学校の同期で監督をしている人達が関わると共に、現場では作品へ出演もしてもらった。
撮影は、通っていた大学のキャンパスで実施している。承諾を得るのが大変そうに感じるが、大学院入試に伴う撮影といった目的から許可を頂けたとのこと。10人にも及ばない少人数のスタッフと共に、5日間で夜間に撮ることもなく、余裕のあるスケジュールにて撮影を行った。特に、講堂で机の上を歩くシーンを撮った時に手応えを感じている。クランクインする前の時点では、脚本に書いておらず「座るだけの芝居だけれども、もっと教室全体を活かせるような動きをしたいな」と練っていた。クランクインの1週間前頃に映画美学校で、塩田明彦監督が『害虫』を解説する講義を受講しており「工場の屋上みたいな場所で男の子と女の子があみだくじのように歩くシーンがある。2人はぶつからず、ただ歩いてる。その動きを見た時に”これは教室でも使えるかもしれない”と思った。現場では”ちょっと歩いてみてくれませんか”と伝えて試してもらった時、凄くしっくりと来た」と話し、功を奏したようだ。実際に映像を観てみると「すごく緊張感があった。教室で机の上に立つ動作も滅多にしないので、面白い画が撮れたな」と気に入っており「セリフも全然発せられない中で、2人の足音だけが響いている。映画館で観た時、皆はどういう気持ちになっているんだろう。何の音もしない空間で長回しを見るのはおもしろいな」と楽しみにしている。
編集段階となり、大学院入試の担当者から「50分くらいの尺の映画を提出することが望ましい」と言われていたこともあり、各々のシーンにある間を延ばしていった。この間を奇妙に感じられるかもしれないが「スクリーンで観てみると、おもしろい。変なリズムがあるけれど、映画と合っている。皆の演技の温度感や会話のトーンが統一されていた。それらが相まって不穏な雰囲気が際立っている」と受けとめている。なお、大学院では日本の非商業主義的映画(ATG作品)の研究を行なっており「自分では影響受けてない、と思いつつも”やっぱりATGの影響を受けているよね”と言われる。映画美学校の先生にもATG作品が好きな方が多い。ATG作品をはじめ、昔の日本映画は人物の動かし方がおもしろい作品が多いので、私自身も人物を動かすことが正義と思うようになった」と述べながらも「今なら、動かさなくてもおもしろいものがいっぱいあるな、と思う。当時は、どうやっておもしろく動かすか、と考えていた。鈴木清順や川島雄三や溝口健二らによる人物の動かし方がすごく好きだったので、影響を受けているかもしれない」と説く。「私がやりたかった撮り方がすごく反映されている」と自負しており「それまで実は劇映画を撮ったことがなかった。フェイクドキュメンタリーを撮っていたので、カメラを回す立場だった。カメラを固定したことがなかった。黒沢清さんやエドワード・ヤンのような静かなショットが決まった映画がすごく好きなので、憧れてきた映画の画作りが反映されている」と受けとめている。
改めて、”よそ者”について「極論を言えば、全員がよそ者だと思っている。皆がそれぞれの社会で生きていたら、様々なコミュニティに所属している。職場や家族や地域ごとの単位で様々な自分がいる。その中で、それぞれの自分のあり方が少しずつ違う。そういうズレも”よそ者”という感覚にも繋がっている」と理解しており「結局、自分から”よそ者”になっている。誰かを”よそ者”にしてしまってる。これは、普遍的な感覚なんじゃないかな」と受けとめていた。『よそ者の会』というタイトルは、最初は「会合の名前をどうしよう?」と決まらず、途中の段階で決まったようだ。元々、角田光代さんの「だれかのいとしいひと」という短編小説の中に「転校生の会」という話があり「すごく好きなストーリーで、かなり参考にしている。”転校生”という言葉から派生して、どこにも属せない人たちは”よそ者”と定めた」と話す。
田辺・弁慶映画祭では「昔の日本映画を見てるようでした」「役者さん3人の演技の雰囲気がすごく良かった」といった感想を様々な方々から頂いた。キネマイスター賞を受賞し、「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」の一作として譲位されることとなったが「お客さんが来るかどうか、といったような不安が大きかった。自分でイチから宣伝等もやっていかないといけなかった。”インディーズにはインディーズの戦い方があるよ”と様々な方から言われるけど、実際にどう戦えばいいのか、具体的なことを教えてもらえず。本当に手探りでやっていたので、ずっとストレスだった」と吐露する。だが、テアトル新宿での上映最終日には、230~240人のお客さんが来場し、満員御礼で立ち見状態となり「自分の映画のためにこれだけの人が劇場までわざわざ来てくれた、という経験ができたのがすごく大きかった。こんなに興味を持ってくれる人がいるんだ。また映画撮りたいな」と純粋に思い、励まされた。なお、来年には、映画を撮ることが出来る会社への就職が決まっており「映画を撮りたいな、と純粋に思っている。今は焦っておらず、ゆっくり着実に映画作りができたらいいなと思っている。映画を作るためにも、社会を見る必要がある。様々な人と出会い、色々な経験をして、映画づくりに還元していきたい」と将来を楽しみにしている。いずれは、SF作品を手がけてみたく「昔から好き。『エイリアン』等の非現実的な作品をいずれは撮ってみたい。ファイナルガールの概念が好きなんですよね。近年では、Apple TV発の『セヴェランス』がすごく好き。オフィス物とSF物が混ざったような作品が好きなので、そういった作品も携わってみたいな」と話し、未来に目を輝かせていた。
映画『よそ者の会』は、6月24日(火)に大阪・梅田のテアトル梅田で公開。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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