服従か尊厳か、女子柔道選手が人生最大の決断を迫られる『TATAMI』がいよいよ劇場公開!

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金メダルを目前に、政府によって敵対国・イスラエルとの対戦の棄権を命じられた、女性柔道選手の決断を描く『TATAMI』が2月28日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『TATAMI』は、スポーツ界への政治介入や中東の複雑な情勢、イラン社会における女性への抑圧を背景に、アスリートたちの不屈の戦いを描いた社会派ドラマ。ジョージアの首都トビリシで女子世界柔道選手権が開催されている。イラン代表選手のレイラ・ホセイニとコーチのマルヤム・ガンバリは、順調に勝ち進んでいたが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため棄権を命じられる。自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶなか、政府に従い怪我を装って棄権するか、それとも自由と尊厳のために戦い続けるか、人生最大の決断を迫られる。
本作は、『SKIN』( 短編)で第91回アカデミー短編実写映画賞を受賞したイスラエル出身の映画監督ガイ・ナッティブと、『聖地には蜘蛛が巣を張る』で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したイラン出身の俳優ザーラ・アミールが共同でメガホンをとり、実話をベースに描いた。レイラ・ホセイニ役をアリエンヌ・マンディ、コーチのマルヤム・ガンバリ役をザーラ・アミールが演じた。第36回東京国際映画祭のコンペティション部門で審査委員特別賞と最優秀女優賞(ザーラ・アミール)の2部門を受賞。映画史上初めてイスラエルとイランにルーツをもつクリエイターが協働した作品とされ、製作に参加したイラン出身者は全員亡命し、映画はイランでは上映不可となっている。
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映画『TATAMI』は、2月28日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや心斎橋のイオンシネマシアタス心斎橋や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都や烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。

ほぼ同時期に日本で公開された『聖なるイチジクの種』(モハマド・ラスロフ監督)然り、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(アリ・アッバシ監督)や『熊は、いない』等のジャファール・パナヒ監督の近作などを思い出してほしい。そこにアッバス・キアロスタミやモフセン・マフマルバフのフィルモグラフィを並べても良いだろう。これらイランの政情とそこに生きる市井の人間の関係を描く作品に込められているパワーには圧倒される(そういった作品を作った監督の多くが国外に脱出せざるを得ないという事実も含めて)。根底には国家に対するプロテストが宿っているが、どの作品も一級のエンターテインメント映画として成立していることに何より心を動かされてしまう。
『TATAMI』もイラン社会への確たるメッセージと映画表現としてのクリエイティビティの煌きに満ちた快作だと言えるだろう。監督は『SKIN/スキン』で日本での認知度も高いイスラエル人監督ガイ・ナッティブと本作でも非常に重要な役柄で出演しているイラン人俳優のザーラ・アミール。この座組からして革命的。それもそのはず、イスラエル人とイラン人がタッグを組んだ作品は映画史上でも類を見ない。さらに実話(スポーツへの政治介入)を下敷きにした本作での共同監督なのだから、その勇気と胆力には敬服する次第である。(ちなみにザーラ・アミールは先に名前を出した『聖地には蜘蛛が巣を張る』にも主演した俳優で、彼女もまた国外に拠点を移している状態)。
作品の舞台はジョージアの柔道国際大会。実際の出来事からは時代を現代に、性別を男子から女子に変更しているが、それがより一層イラン・イスラム社会で女性の置かれた状況を映し出すことに奏功している。主人公であるイラン代表のレイラ・ホセイニとコーチのマルヤム・ガンバリは大会の有力候補として勝ち進んでいくが、メダルを射程圏内に捉えたところに、イスラエル代表選手との対戦を棄権するよう国家から命令が下ってしまう。自らのみならず家族までも人質に取られた中で、それでも大会は否応なく進行する。我が国日本でも「スポーツに政治を持ち込むな」という言説は見受けられるが、それとはまた位相・重みが全く異なる極限の選択をレイラは迫られる。
更に本作の素晴らしいところは映像演出のキレ味。シャープなモノクロは先述の通り歴史事実をモチーフにしているという所信表明であり、スタンダード画角は登場人物の追い詰められた状況描写に繋がり、極限の集中力を発揮する試合シーンで効果的に作用している。加えて、会場の内外を慌ただしく動く人物を追いかけるカメラムーブと携帯通話を媒介としたカットバックは誰もが即時行動(決断)を求められているサスペンスを駆動させるているし、折に触れ効果的に挿入される回想シーンには抑圧された社会での市井の人々への慈しみを感じざるを得ない。
百聞は一見に如かず。まずは何も言わず冒頭シークエンスを集中して観てほしい。選手バスの車窓から始まりそこに音楽が乗り、街の実景から真俯瞰でタイトルが映し出される冒頭のシークエンスを観てほしい。異なるショット(ロング・エンプティ・オーバーヘッド)を連ねる如才なさに恐れ入る。ここだけを注視してもクリエイティビティの躍動に脈拍が上がる思いだ。
fromhachi

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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