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それぞれの暮らしやすさや生きやすさや居場所が見つかる、世の中の拠り所になる存在になれば…『港に灯がともる』富田望生さんと安達もじり監督を迎え舞台挨拶開催!

2025年1月17日

神戸に暮らす人々への膨大な取材を基に、震災発生直後に生まれた在日韓国人3世の女性の葛藤と成長を通して、心の復興を描く『港に灯がともる』が1月17日(金)より全国の劇場で公開。初日には、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸に富田望生さんと安達もじり監督を迎え、舞台挨拶が開催された。

 

映画『港に灯がともる』は、阪神淡路大震災の翌月に神戸に生まれた在日韓国人3世の女性を主人公に、高校卒業から12年間にわたる葛藤と模索の日々をつづったドラマ。自身の出自と親から聞かされる震災の記憶の板挟みになり双極性障害を発症した主人公が、コロナ禍を経て回復を目指すなかで希望を見いだしていく姿を描く。1995年の震災で甚大な被害を受けた神戸市長田区。当時そこに暮らしていた在日韓国人・金子家の娘として生まれた灯(あかり)は、両親から家族の歴史や震災当時の話を聞かされても実感を持てず、どこか孤独と苛立ちを募らせていた。震災で仕事を失った父の一雄は家族との衝突が絶えず、家にはいつも冷たい空気が流れている。やがて、しっかり者である姉の美悠が日本への帰化を進めようとしたことから、家族はさらに傾いていく。『ソロモンの偽証』の富田望生さんが灯役で主演を務め、姉の美悠を『サマーフィルムにのって』の伊藤万理華さん、弟の滉一を『まなみ100%』の青木柚さん、母の栄美子を麻生祐未さん、父の一雄を甲本雅裕さんが演じた。NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の安達もじりさんが監督を務めている。

 

上映後に富田望生さんと安達もじり監督が登壇。安達監督は「今朝も長田で朝から過ごしていたんですけど、暗い時間から太陽が昇って朝歩いていたら、いつもの日常がそこにありました。灯は今日どこで何をしているんだろうな、と思いながら、今日ここまでの時間を過ごしてきました」と現在の気持ちを語っていく。富田さんは「正直、物凄くずっと抱きしめていた作品なので、こんなに見送るのが寂しいのかなぁ、って思いながら、ここ数日過ごしておりました。本日、無事に初日が迎えられて、とても嬉しく思っております。こんなに寂しい気持ちになれるような作品を作ることができるって幸せだな、って思っております。この作品が出来るためにはここ神戸の地が本当に支えとなっておりました。本日1月17日、こうして神戸で御挨拶ができているということに感謝しなければいけないな、と思っております」と感極まる気持ちを伝えた。また、神戸に来たことで「神戸の方々とお話する時間が私自身の心がフラットになるまでの時間。灯にとっても青山さんや丸五市場の方々との時間が、自分自身がフラットになって向き合える時間につながったんだろうな、と思うので、皆さんの目がなぜだか落ち着きます」とリラックスしてきたようだ。

 

公開初日を迎え、安達監督は「この作品を作り始める時から、30年という時間が経つんだな、ということをと常に思いながら作ってきました。この日に初日を迎えさせて頂いたことは、この作品にとって、とても意味があることだと思います」と感慨深い思いを伝えた。富田さんも「この作品で伝えるならば、30年という月日は灯が生きてきた30年だと思うので、まず、彼女の今の生きている時間を優しく見つめ続けたいな」という思いがあると同時に「私も今朝、長田で黙祷させて頂いて…私の生まれる前の出来事ではありますけれども、それでも、想像して思いを馳せる時間はとても大切だなぁ、と思っているので。今日は、長田のその場所には沢山の小さい子が書いた絵が火でともっているものを見て、希望という言葉では表せない温かさが充満している時間だったなぁ」と振り返る。

 

 

 

昨年、神戸で1ヶ月余りの期間をかけて撮影した作品が公開となり、富田さんは「まだ実感が湧いてないです…けれども、ゆっくりとこの作品が歩いていき始めたんだなぁ、って思っております。その歩いていく姿を優しく見守っていければな、と思っています」と子を見守る親になったような気持ちで話す。そして、映画初主演でもあり「震災・在日・双極性障害というパワーワードが目に飛び込んでくるのかな、と思うんですけれども、灯は、いたって普通の女の子で、様々な揺らぎを抱えている中での出来事だと思うので、それに気づいて腑に落ちた時からは、難しい役だという概念は全くなく、とにかく、この地で生活して空気に触れている時間が凄く愛おしいな、と思いながら撮影期間中は過ごしておりました」と振り返る。また「沢山のスタッフと信頼できるキャストの皆様と、皆が楽しい、と言いながら映画を作って、一度東京に帰るキャストもいらっしゃいましたけど、神戸にくると、なんだか、ただいま、と言いたくなる空気の中で、こういった作品が作れたことは素晴らしいことだな。まず、それに参加できたことが嬉しいことだなぁ、と思っています」とこの機会に感謝していた。

 

撮影中の演出について、安達監督は「正直、苦労した感覚はそんなになくて…というと語弊がとてもあると思うんですけど…本当にありがたいことに、余裕を持ったスケジュールを組んでもらえて、ほぼ頭からシーン順に順撮りできて撮っていけたので、灯の12年間を描いている設定ではあったんですけど、その12年間を富田さんとスタッフが一緒になって経験していったような…一つずつその時間を、この場所に今いて、こんな人と出会って何を感じるか、ということを一緒になって感じながら経験していったような時間だったので、灯がとてもしんどい局面も沢山ありましたけど、それも一緒になってその時間を過ごすことが、この作品を撮った時の大きな経験だったな」と振り返りながら「前半、台本上で物語の設定上、灯がしんどいシーンが多くて、富田さんも毎回そのシーンの感情に1つ1つもっていくことを物凄いパワーでやってくださいました。前半を抜けて、後半は次第に晴れやかにいけるかな、と思っていたら、様々な人と出会ってその人達から何を感じて、どう思っていくのか、ということを経験していくことが1つ1つ凄く力が要ることで…」と濃密な長い時間だったことを思い返す。

 

 

印象に残っているシーンとして、富田さんは「あり過ぎるんですけれども、どこを挙げたらいいのだろうか」と迷いながらも「私は完成(した状態)を何度も観ているんですけれども、青山さんのところに面接に行くシーンが一番涙が止まらなくなるところですね。彼女が自分の言葉で誰かに話せている成長と、そういう場所に出会えたんだな、というところに観ていて一番涙が止まらなくなるシーンですね」と話す。撮影に関しては「本当にどのシーンもかけがえがなくて…一番難しかったのは、エンドロールかなぁ、と思っています。灯のこれまでの人生を5分という時間で表現してほしい、とオーダーが一番難しかったかなぁ、と思っているんですけれども。鮮明に”違う、もう1回”と言われたのを覚えています。そういう会話をすることが本編の撮影中にあまりなかったので。エンドロールは終盤に撮影したんですけれども、”分かっているよぉ”とちょっとだけ言い合いをしました。それは本編とは違うような新鮮な時間だったなぁ」と受けとめている。これを受け、安達監督は「撮り始めていくうちに、一度その時間を経験することをしっかりと映像に収めることがこの作品には大事なのかな、と思って、次第に現場のルールとして、本番1回目でスタッフ・キャスト全員がとにかく集中して、この時間を経験しよう、というやり方になっていった。ほとんどのシーンがファーストテイクでつないでいっているので、そんな中でのエンドロールは…という感じでした」と解説。本編最後にある電話シーンについてはリハーサルすら行っておらず、富田さんは「10分以上の1カットがあります、と聞いており、あそこしかない、と思った。実際に、お父さん役の甲本さんと電話をつないだ。甲本さんは、公園の見えないところから電話をつないでくれて演じさせていただいたんですけれども、映像には映らないけれども、衣装を脱ぐこともなく、お父さんの姿で公園のどこかで電話をしてくれていて、あのカットで全編オールアップだったので、お父さんと一緒に撮り切りを分かち合うことができる幸せもあり、思い出深い一つですね」と語った。

 

最後に、安達監督は「誰一人悪者として描かない、ということを目指して作ってきました。登場人物全員にそれぞれ人生があり、生きた時間がある。そういう人同士が交差することで人も変わっていく。新しい感情が生まれたり、良いことも悪いこともあり。現実をきれいごとにせず、しっかりと描きたかった。もしかしたら、登場人物の誰に感情移入していただいて観ていただくか、で物語の見え方も変わるかもしれない。是非何度でも観て頂けたら、また違う味わいもあるかと思います。このタイミングでお届けする作品ではありますが、息の長い作品になるといいな。色々と感じて下さったり、そういう気持ちを抱いて頂いたのであれば、様々な方とお話してくださって、この作品を通して新しいつながりや対話が生まれていくと、この作品は幸せだなぁ、と思っております。ここからこの作品が育っていくと思います」と思いを込めていく。富田さんは「灯は今日も青山さんの事務所に行って働いているかなぁ、なんて想像しております。映画を観てくださった皆様が、どこかに灯を感じてくれたらいいなぁ、って思っております。それぞれの暮らしやすさや生きやすさ、それぞれの居場所が見つかる世の中になるために、ちょっとでもこの作品がその拠り所になるような存在になっていただけたら、という歩き方をしてくれたら嬉しいな、と思っておりますので、どこか片隅にこの作品のことを覚えて留めていただけたら、とても幸せです」と伝え、舞台挨拶を締め括った。

 

映画『港に灯がともる』は、1月17日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田や難波のなんばパークスシネマ、十三の第七藝術劇場や九条のシネ・ヌーヴォ、京都・三条のMOVIX京都や烏丸の京都シネマや出町柳の出町座、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際シネ・リーブル神戸や元町の元町映画館等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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