グランピング場建設計画を巡る父娘の物語を描く『悪は存在しない』がいよいよ関西の劇場でも公開!
©2023 NEOPA / Fictive
長野県の自然豊かな高原を舞台に、慎ましい生活を代々続けてきた住民の、レジャー施設の開発をめぐる生活の変化を描く『悪は存在しない』が5月3日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『悪は存在しない』…
自然豊かな高原に位置する長野県水挽町は、東京からも近いため近年移住者が増加傾向にあり、ごく緩やかに発展している。代々その地に暮らす巧は、娘の花とともに自然のサイクルに合わせた慎ましい生活を送っているが、ある時、家の近くでグランピング場の設営計画が持ち上がる。それは、コロナ禍のあおりで経営難に陥った芸能事務所が、政府からの補助金を得て計画したものだった。しかし、彼らが町の水源に汚水を流そうとしていることがわかったことから町内に動揺が広がり、巧たちの静かな生活にも思わぬ余波が及ぶことになる。
本作では、『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー国際長編映画賞、カンヌ国際映画祭脚本賞、『偶然と想像』でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞するなど国際的に高く評価される濱口竜介監督が、カンヌ、ベルリンと並ぶ世界3大映画祭のひとつであるベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)受賞を果たした長編作品。『ドライブ・マイ・カー』でもタッグを組んだ音楽家・シンガーソングライターの石橋英子さんと濱口監督による共同企画として誕生した。石橋さんがライブパフォーマンスのための映像を濱口監督に依頼したことから、プロジェクトがスタート。その音楽ライブ用の映像を制作する過程で、1本の長編映画としての本作も誕生した。2023年の第80回ベネチア国際映画祭では銀獅子賞(審査員大賞)を受賞したほか、映画祭本体とは別機関から授与される国際批評家連盟賞、映画企業特別賞、人・職場・環境賞の3つの独立賞も受賞した。
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映画『悪は存在しない』は、関西では、5月3日(金)より京都・出町柳の出町座や烏丸の京都シネマ、5月4日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォや十三の第七藝術劇場、神戸・元町の元町映画館等で公開。
石橋英子さんのライブ用サイレント映像『GIFT』と共に誕生した本作。今年2月にロームシアター京都で『GIFT』を体感したが、石橋さんが時折挟み込む音の洪水を成したインプロビゼーションが印象的で呆然としたまま観終えた。両作品共に基本的なストーリー展開は同じだ。だが、本作においては、さらにシーンが追加され、物語は重厚感があり、別作品として存分に鑑賞できる。序盤から長野県水挽町にある自然のダイナミズムを見せられる共に慎ましく生活する住民の営みが伝わってきた。そんな場所に、都会からグランピング場の設営計画が持ち込まれてしまう。それは自然を慮らない人々による計画でしかなく、到底受け入れられるものではない。代替案を上げたとしても穴だらけ。誠意を以て接しようとする姿を見せても、上辺だけであることが見え見えである。そんな大人の諍いを見据えたかのように、自然のメタファーとして、主人公の娘である花が存在しているようでもあった。各々のキャラクターが持つ感情が交わったかのように見えた先に放たれた本作のクライマックス、またその先にある物語に思いを巡らせながら、劇場を後にすることが出来るだろう。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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